2013-02-05

大規模インフラと小さな最先端 | 技術の選択

先日、とある資源メジャーの副社長の方が大学で講演した時のお話。

簡単に言うと「鉱山から出る廃棄物を環境に優しい方法で捨てる新技術を10年ほど前に開発しました」という内容だったんですが、質疑応答の際に

「なんで10年も前に開発されたその新技術がまだほとんどの鉱山で使われてないんですか?」

という質問が出ました。それに対する副社長の答えが中々に興味深かったのでここに記しておきます。


良い質問ですね。実はその質問を受けるのは今回が初めてではありません。鉱山関係者では無い方々もここにはいらっしゃるようなので、今日は鉱山以外の例で説明してみようと思います。みなさんの好きなシリコンバレーの企業を使いましょう。
皆さんも良く使っているであろうYahoo!を思い浮かべて下さい。Googleでも構わないんですが、友人がYahoo!で働いてるので今回はYahoo!で説明したいと思います。あのような非常に大きな会社の大きなサービスにはたくさんの人が関わって運営しています。それぞれにバックグラウンドの異なる人達が世界中から集まってきて1つのサービスを作っています。そのような場で最新技術を標準採用した場合どうなるでしょうか?まず、そのような最新技術にキャッチアップしている人間が少ないという問題があります。ラーニングコストはキャピタルコストと違って、組織に対して突然大きなコストを強いるとパンクします。次に、もし問題が起こった場合の対処法が確立されていません。デバッグが出来ないのです。インフラの性質を帯びた大きなサービスというのはデフォルトした時に大変な被害が出ます。Yahoo!が落ちても死人は出ませんが、鉱山の場合は死人が出ます。そのため、万人がある程度は理解している事が保障されていて実証データも十分にありデバッグの容易な枯れた技術を使うという事は大きなサービスにとっては必要条件なんです。
最先端の技術を標準採用するのは、能力の高い人間だけを少数集めたベンチャー企業のやることです。我々も小規模な鉱山で十分に安全性を確保しながら実験を進めていますが、やはりそのような最先端技術の実証データはベンチャー企業の方々や小規模実験が生み出していく事が多いのです。そういうわけで、件のような最先端技術は大規模な鉱山ではまだ採用されていないのですが時代の経過とともにその数は増えていくでしょう。技術というのは革命とでもいえる物でない限りは突然普及したりはしません。技術をマネジメントし普及させるための様々なツールや方法論が確立され、あらゆる新技術において普及までに要する時間が短くなってはいますが、それでもやはり新しいiPhoneが出るたびに買い替えるようなペースでは進まないのです。



という内容でした。(もちろん英語で聴いたものを日本語に直しているので多少変な部分はありますが…)

巨大なIT企業の例が万人に分かりやすいのかはいささか不明ですが、日本に限らず最近の大学生はIT企業にやたら詳しかったりするのでチョイスしたんでしょう。講演の序盤に「なんで君達はIT企業がそんなに好きなの?」みたいな一幕もありましたし。

何はともあれ、大人数が関わる大規模な「開発」というものには業種が違えど共通する部分があるんだな。ということを理解できた楽しい講演でした。こんな物知り上司と働きたい。

P.S.
Gunosyの3160万円の資金調達のニュースもあり日本ではデータマイニングが大人気なようですが、農業の次に古い産業である鉱業(マイニング)から学べる事もたくさんありそうです。





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