2012-02-02

鉱山工学という学問

今日は僕が海外の大学院で学びたいMining Engineeringという学問について書きます。主に英語版WikipediaのMining Engineeringのページを訳す感じで紹介します。よくまとまっているし、日本語でMining Engineeringについてまとめたページが存在しないことを考えると、それ自体意義があることだと思うので。


名称
まず、名称なのですが日本語では「鉱山工学」と訳されたり「資源工学」と訳されたりします。本稿では鉱山工学と表記します。資源工学と言うと、エネルギーマネジメントも含めたResource Engineeringの色を帯びてくる(気がする)ので。とは言ってもMining Engineeringが扱うトピックは資源工学とも共通する部分が多々あるし、2つの境界は曖昧です。


概要
Mining Engineeringは主に
Mineral exploration
Mining operation
Mining health and safety
Mining and the environment
という4つの分野から構成されます。

Mineral exploration
日本語訳は 鉱床探査 でいいかな?この領域には、鉱床の発見・鉱床の成分調査・実施可能性調査の3つのプロセスが含まれます。

鉱床の発見プロセスでは、地質学者達と協力して地面をドリルで掘り掘りしたりして鉱床を見つけます。ちなみに、掘る前に衛星画像とか航空写真とか過去の採掘地図とかありとあらゆる情報を活用して当たりを付けてるのは言わずもがな。金属だけじゃなくてリンとか石炭みたいな非金属も探査します。

鉱床の成分調査プロセスでは、鉱床全体にどんな鉱石がどれぐらいの割合で含まれているかを、土の化学分析とかして特定します。この時、鉱石の量だけではなく鉱石の純度・質も調査します。

実施可能性調査(Feasibility Study)のプロセスでは、その鉱床を掘って→採れた鉱石を売って→採算が取れるかを調査します。基本的な部分で言うと市場の鉱石価格・需要・人件費などを考慮します。日本語で普通にフィージビリティースタディーって言われるぐらい定着してるから説明はいらないかな?


Mining Operation
日本語訳は 鉱山でのオペレーション。オペレーションという言葉は日本語に訳すのが無粋な言葉なのでみんな感じ取ってください。この領域には、表面切削や爆破のプロセスが含まれます。

表面切削は鉱石を採掘するにあたって重要なプロセスです。というのも、重量ベースでの世界の鉱石生産量の90%は地表面に含まれているものだからです。後の項でも言及しますが、地表面をガツガツ掘ることは、その土地の性質に多大な影響を及ぼす行為なので鉱山工学者はその点に注意しなければなりません。表面切削のイメージは、下のRio Tintoの紹介ビデオを見て掴んで下さい。


爆破は字の如く爆破するプロセスですね。硬い岩盤とかは爆破しないと掘れませんので、いわゆるダイナマイトみたいな爆薬を使うわけです。しかし、爆薬と一口に言ってもたくさんの種類があるわけで、ケースバイケースで必要な爆発力を計算して適切な爆薬を選択します。鉱山工学者はここらへん責任持ってきちんとやってるらしいです。


Mining health and safety
日本語訳は 鉱山での健康と安全 です。19世紀後半から提唱され始めたもので、鉱山は毒ガスが発生したり、落盤が起こったりして危ないから鉱山内労働者の健康と安全には十分配慮しましょうというもの。詳しくはWikipedia:カナリアに譲りますが、昔は常にピヨピヨ鳴いてるカナリアを炭鉱内に持ち込んで、カナリアが死んで鳴かなくなる=毒ガス発生、という検知の仕方をしてたらしいです。


Mining and the environment
日本語訳は 鉱山と環境 かな、うん、日本語訳することに意味ないね。
上述した通り、鉱山開発はその土地の性質を大きく変えて生態系も脅かすほどの影響力があります。それゆえ、掘るときはもちろんのこと、掘った後にどうやって鉱山を閉山するかも環境への配慮をした上でしっかりしましょう、ということです。


以上、4つの領域に関して配慮しながら鉱山工学者は働いているわけで、それらを学ぶのが鉱山工学(Mining engineering)というわけです。


日本における鉱山工学
日本は昔、黄金の国ジパングと紹介されるほど金が採れてたらしいですが、今はからっきし。石見銀山も閉山。

ってことで、そもそも近代科学の土壌が整った上で鉱山工学をやろうというモチベーションがありません。国内の大学で総合的に鉱山工学を学べる大学は秋田大学くらいです。東大と早稲田は部分的に研究している研究室が残っていますが総合的に取り組んでいる研究室は存在しません。

では、日本にMining Engineeringは必要ないのか?答えは否。
質の高い工業製品を生産できる日本は、それで飯食ってる企業がいっぱいあります。彼らの作る工業製品の原材料である鉱石を安定的に確保するのは日本にとって超重要なのです。現状、資源メジャーと呼ばれる海外の超巨大資源開発会社(BHP billiton, Rio Tinto, etc...)からの輸入に頼っていますが、そんなものは彼らの決定1つで揺蕩う儚い安定供給です。価格交渉権も勿論ありません。今こそ日本は自らの力で資源獲得に乗り出すべきなのです。

なんていうのは誰もが考えることで、じゃあ日本で誰かそういうことやってんの?という話ですよね。現在のところ、日本で資源の獲得・鉱山権益の獲得に最も近いことをやれているのは総合商社(三菱商事、三井物産、住友商事etc...)です。彼らの言うところの「事業投資」や莫大な資金による権益獲得が功を奏すかはまだ分かりません。うまく行きそうな気はしますが。

(資源メジャーと天然資源についてはこちらを参照)

鉱山工学を学ぶ動機
ここから先は鉱山工学という学問とは関係ないお話なので、僕に興味のない方はスルーしてください。

上で見たように、総合商社なんていう日本の誇る超巨大営利組織が頑張ってくれてる中、お前はなにゆえ海外の大学院で鉱山工学を学ぶのか?というお話。

1つの理由は 日本で学べないから です。
戦勝国ではないので自国以外に山の権益を持っているわけでもなく、国内にも開発の盛んな鉱山がない日本で最先端の鉱山工学を学べるわけがありません。フィールドワークも無理。それなら国内に開発の盛んな鉱山がいっぱいあって、学問としても高いレベルの研究が行えているカナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)やマギル大学(McGill University)、アメリカのスタンフォード大学(Stanford University)やコロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)に行ってしまおうというわけです。各大学は資源メジャーとも太いパイプがあるからインターンとかも出来るかもしれないしね。


もう1つの理由は 鉱山工学という学問が僕の性分に合っていた からです。
概要で紹介したように、鉱山工学は物理学・化学・地質学・経済学・統計学など様々な学問を高いレベルで要求されます。生来、1つのことを120%のクオリティーで仕上げるよりも、たくさんのことを期間内に105%ぐらいのクオリティーで仕上げるのが得意だった僕にこの学問はうってつけだったわけです。もし、海外大学院に合格できればMasterの二年間は全分野を幅広く学び、Ph.D.の三年間は Mineral Exploration か Mining Operation の分野をガッツリやりたいですね。


最後の理由は 日本人の研究者・実務者が少ないから です。
22年間生きてきて、東大で工学を学び、そして分かりましたが鉱山工学という学問はその重要性に反比例するかのごとく取り組んでいる日本人がいません。こういうところに飛び込めるチャンスがあるというのはとても幸せなことだと思います。時代に恵まれなければならないからです。幸い、僕は鉱山工学という学問の需要が上昇している時代に生まれることが出来ました。日本人の先行者がいない環境を歩いていけるのはとても楽しみです。


将来、資源メジャーで働くのか、太平洋の海底鉱床を掘るベンチャーでも興すのか、分かりません。願わくば、日本の資源獲得競争の最前線で楽しく必死に仕事できれば良いなと思っています。

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